
こんにちは三日月です。
今日は読者の方から受けた質問に、Diさんに答えていただきます。
今後もどんどん質問をお寄せください。
【Summer Salt はどんな性格ですか?人間のように舟にも相性などはありますか?】(千葉県 R.A.さん)
以下、Diさんからの回答です。
ここではちょっと硬い操船に関しての特性の話から始めたいと思います。まず一般的に比較しやすいのが自動車の運転でしょうか。日本国内では殆どの方々が運転免許証を持っている時代ですから、大体の方は自動車運転の経験があると思います。操船は自動車運転と似たような感じなのかと思われるかもしれません。確かにパワーボートの操船は近いものがありますが、Summer Salt のようなセールボートの場合はかなり違います。大きな相違点は2点、船体の大きさに対するエンジンパワー比、そして船底形状の違いです。
セールボートに搭載されているエンジンは補機と呼ばれ、セール(※1)が主機です。エンジンはポンツーン(※2)に着艇する場合に使うことが殆どで、長い航海の移動中に使用することは余りありません。つまりどんな天候状況でもエンジンで自由に操船するだけのパワーを、帆船のエンジンは持っていないのです。
それに対してパワーボートはエンジンが主機ですから、自動車の運転に感覚が似ていると感じるのでしょう。言い換えれば、セールボートが機走している場合の操作性能はあまり良くはないと言うことなのです。
当然、船底形状を思い浮かべていただければわかるとおり、セールボートにはパワーボートには無いキールと呼ばれる出っ張りがあります。これが機走時に転回性能を落としている原因でもあります。Summer Saltの場合スケグ(※3)という抵抗がスターン(※4)にも存在しているので、なおさら機敏に動かないことがわかると思います。直進安定性と機敏に動ける転回性能は反比例するものだと言えるでしょう。
もうひとつセールボートでの操船時に車の動きには無いことがあります。それは後進時、プロップウォーク(※5)という現象が必ず起きることです。その現象とはプロペラの回転する方向によって、後進時の動き始めにスターンが左右どちらかに触れるというものです。Summer Saltの場合、必ずポート側に尻を振る感じで動きます。自動車はステアリング(※6)を切っていなければまっすぐに後進し始めますが、セールボートはそうではないのです。セーリング・スクールでは、その感覚が自分の感覚になじむまで、何度もドッキング(※7)やアンカリング(※8)操船を練習させられました。慣れてくればこの特性を上手く利用しドッキングを楽にしたり、狭い場所での360度転回が可能になるのです。人は特性を理解したとき、必ずそれを有効活用出来るようになるのがすごいと僕はいつも思います。
ではSummer Saltの帆走時の特性はというと、直進安定性優先のセッティングになっていると思います。前記スケグの働きが大きいと思うのですが、一度コースを決めてセールを調整してしまえばステアリングは殆ど触る必要もありませんでした。これは機走時でも同じで、大きな波などの外乱が無ければずっと直進することが昨年のクルージングでわかりました。GPSと連動するオートヘルムという自動航行装置を積んでいないSummer Saltでは、航海時ずっとステアリングを握っていないといけないかと言うとそうでもありませんでした。僕が冗談で名づけたPoorman's Auto helm system(右の写真の赤い紐)だけでもかなりいい感じで機走、帆走ともこなしてくれました。それだけ操舵主に負担をかけない特性を持っている舟だと思います。気持ちいい風のセーリング時以外は、ステアリングに縛り付けられることほど無意味な時間はないと思います。その間、意識をWatch(周囲確認)に向けたり、ナビゲーションのチェックや読書に費やしたほうがどんなに安全で豊かな時間が過ごせるでしょう。いつも操舵の奴隷にだけはなりたくないと思っています。
そんなこともあって長年の夢であった自動航行装置を現在手配しているところです。帆船の場合、自動航行装置は2種類あって、GPSと連動し電力で動くオートヘルム。もうひとつ僕が欲しいと思っているのは、風の向きに対して一定のコースで走るようにする機械式のウィンドベーン(※9)というものです。僕にはこのウィンドベーンの動作原理がずっと謎で、それを自分の目で動作を見て理解することが出来ると思うとワクワクせずにはいられません。電力も食わないウィンドベーンは、GPSも無かった時代から古から船乗りの夢である自動航行を果たしてくれました。その開発過程は結構面白く、今でもウィンドベーン販売店の文書で読むことが出来ます。
Summer Saltの性格は、へたっぴな操舵手の腕にも寛容な安定性のある走りをしてくれる包容力ある舟だと言えると思います。何よりも、こいつとだったら一緒に旅が出来そうだと自分が感じられることが大切だと思います。それはバイクで旅をしたとき、馬旅をしたときと全く同様で、旅を共にする相棒が旅の成果の8割以上を占めると僕は考えます。
※1 セール:帆(sail)
※2 ポンツーン:浮き桟橋などの台船(pontoon)
※3 スケグ:ラダー(かじ)を保持する固定フィン。海を漂う材木や海草からラダーを守る機能もあり。 (skeg)
※4 スターン:船尾(stern)
※5 プロップウォーク:(prop walk)
※6 ステアリング:方向変換機構。また、そのハンドルのこと。
※7 ドッキング:離岸・着岸(docking)
※8 アンカリング:船を停泊させる際に錨(アンカー)を打つこと。(anchoring)
※9 ウィンドベーン:機械式自動航行装置
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